今年の振り返り

今年ももう12月ということなので、今年の振り返りです。 2023年は初めて自分でゼミを主催したり、他の方のゼミに参加したりと、色々な方と数学の話をする機会が持てた年だったなぁという感想でした。

主催したゼミは以下の4つでした。

・「Introduction to Moduli Problem and Orbit Spaces」 (P.E.Newstead)
・「代数曲線・代数曲面論入門」(安藤 哲也)
・「ハーツホーン4章、5章」
・「代数曲線束の地誌学」(今野 宏一)

また、兼ねてより興味のあったKollar-Moriのゼミに参加させて頂けることになりました。 幸い、幾つかのゼミでは現役で代数幾何を専攻されている方にも聴講していただけたりとめちゃくちゃ有意義な時間でした。 (特にモジュライ理論のゼミは、ほぼほぼTAをして頂いているような状況でした…本当に感謝です)

何よりゼミ前後の雑談で、自分の知らない分野の面白い話を聞けたりすることがとても楽しく、 自分主催のゼミにも関わらず、一生その話を聞いていたい気持ちになったりしました。

数学科で正規の教育を受けていない中で、今まで「数学の本の読み方は合ってるか?トンデモになっていないか?」という不安がどこかずっと 付き纏っていましたが、ゼミ発表によって「少なくともトンデモではなさそう」ということを漠然と答え合わせができたと勝手に思っています。 (と、私が勝手に思っているだけなので、「あなたトンデモですよ」ということでしたらこっそり教えてください….)

一方で、やはり興味のあることだけに時間を掛けてきてしまったので、基礎的な部分で勉強が不足しているなと感じる部分がありました。 しかし、これもゼミをしなければ気付けなかったことなので、こういったことも発表するメリットの一つだなと思います。 (しかしながら数学科のカリキュラムってよく出来ているんだなと感じました….)期限に縛られない趣味のメリットを活かして、 ゆっくりと穴埋めをして行ければなぁと思います。

来年は、聴講して頂ける方がいる限りゼミを続けることと、兼ねてより興味のあるMinimal Model Programについて 理解を深める年に出来ればと思います。

近況

最近は持ちゼミが3つになり、充実した数学ライフを送ることができています。仕事の傍らの準備なので時間が足りないですが、(強制力によって?)一人の時よりがっつり詰め目に読めるので身になりやすいと感じてます。

始めたゼミは、

・安藤哲哉「代数曲線・代数曲面入門」
・P.Newstead 「Introduction to moduli problem and orbit spaces」
・今野一宏「代数曲線束の地誌学」

です。安藤本は基礎固めのため、Newsteadは兼ねてより興味のあったモジュライ理論を勉強するため(HuybrechtsにあるK3曲面のモジュライの話を理解したかった)、今野本はコホモロジーや因子の具体的な計算を沢山出来るということで紹介してもらったので読み始めることにしました。

理解しているつもりでも、いざ発表を迎えると質問に答えられなかったり、実はよく分かってないじゃん!的なことの多さを痛感しますね。その度基礎に戻りつつ楽しみたいと思います。

Huybrechts読書記録

Sachiです。相変わらず D.Huybrechtsの「Fourier-Mukai transform in Algebraic Geometry」を読んでいます。 現在6章の「Derived Category and canonical Bundle - Ⅱ」の章を読んでいるのですが、基礎的な部分で勘違いしていることが多いなと痛感させられています。

一方、先日TexPadなるiPad用のTexアプリを購入してからこの本のノートをTexで取るようになりました。 そこで折角Texに慣れてきたことだし、基礎的な1~3章の復習も兼ねて、一度読んだ部分を読書記録としてTexで書き起こすのも面白いかもしれないなと思うようになりました。

現状まだ5章の初めの内容しか書いておらず中身はペラッペラなのですが、ゆっくり書き足していこうかなと思います。 存在するのか定かではありませんが、もし読んで下さるというレアな方がいらっしゃいましたら、些細なことでも良いですのでお気づきの点を教えていただければ幸いです。

drive.google.com

Beilinson Resolution

 \require{AMScd}


\def\bP{{ \mathbb{P} }}
\def\cA{{ \mathcal{A} }}
\def\cO{{ \mathcal{O} }}
\def\cF{{ \mathcal{F} }}
\def\cE{{ \mathcal{E} }}
\def\bC{{ \mathbb{C} }}

Sachi です。最近は代数曲面論の本を読んだり、複素多様体の解析的理論の解説を眺めてみたり、 連接層の導来圏に関する勉強をしたりとフラフラしています。


一応主軸は Daniel Huybrechts による「Fourier-Mukai Transform in Algebraic Geometry」に据えているつもりですが、ちょっと別の文献に移るたびに内容をごっそり忘れてしまうので、"日記に残す" を実践することによって記憶への定着を図りたいと目論見ました。従って、間違った情報が多分に含まれることと思いますので、閲覧の際はご注意ください。

(注意) 本ブログは数学が趣味のアマチュアによる記事ですので、その点ご承知おき頂ければ幸いです。 また、紹介する文献の内容も然ることながら、基礎となる理論の理解も怪しい部分が多々あると思います。概念の用い方や記事内容の怪しい部分、補足などなんでも結構ですので、お気づきの点がありましたらTwitter(@sachiiiimath)までお知らせ頂けるとありがたいです。




今回はBeilinson Resolution についてです。



きっかけ

ネットサーフィンしていた時に偶然、Fourier-Mukai Transform に関するpdfを見つけました。


https://www.math.u-bordeaux.fr/ALGANT/documents/theses/kelly.pdf


上原先生・戸田先生による『連接層の導来圏と代数幾何学』を読んでいて、外部テンソル積(  \boxtimes )の定義を見つけられずナニコレェ...と思っていたところ、丁度こちらに定義が書いてあり、ラッキーと思って眺めてみることに。すると、川又さんによる連接層の導来圏に関する論説で紹介されていたBeilinsonの定理についての内容の一部(?)と思しき内容を見つけたので、その部分だけ読んでみることにしました。


Beilinson Resolution

 \bP^n を体  k 上の  n次元射影空間、 p,q : \bP^n \times \bP^n \rightarrow \bP^n をそれぞれ第1,第2成分への自然な射影とします. また,  \Delta \subset \mathbb{P}^n \times \mathbb{P}^n を対角成分のなす閉部分多様体,  \cO_\Delta をその構造層とします.


Proposition 4.1.1 上記の仮定のもと, 局所自由分解

\begin{align} 0 &\longrightarrow p^*\cO(-n) \otimes q^*\Omega^{n}(n) \longrightarrow p^*\cO(-n+1) \otimes q^*\Omega^{n-1}(n-1) \\\ &\longrightarrow \cdots \longrightarrow p^*\cO(-1) \otimes q^*\Omega(1) \longrightarrow \cO_{\bP^1 \times \bP^1} \longrightarrow \cO_\Delta \longrightarrow 0 \end{align}

が存在する.


ここで,  \cO \mathbb{P}^n の構造層 ,  \cO(-m) はSerre‘s twisting sheaf ,  \Omega \bP^n k-微分形式の層です. この局所自由分解を対角成分での Beilinson Resoution と言うようです.


証明のアイデア

 \bP^n \times \bP^n の第一, 第二成分をそれぞれ  X ,Y, および  p : X \times Y \rightarrow X \  , \  q : X \times Y \rightarrow Y をそれぞれ自然な射影とします.  X Y それぞれの Euler sequence (Hartshorne Ⅱ Theorem 8.13)

\begin{CD} 0 \longrightarrow \Omega_{\bP^n}(1) \longrightarrow \cO_{\bP^n}^{\oplus \ n+1} \longrightarrow \cO_{\bP^n}(1) \longrightarrow 0 \end{CD}
 p および  q での引き戻しを計算することで得られる射 ,  p^* \cO_X(-1) \otimes q^* \Omega_Y(1) \longrightarrow \cO_{X \times Y} の像を計算すると, それは対角成分  \Delta \subset \bP^n \times \bP^n を定義する Ideal Sheaf と一致することがわかり,その結果得られる完全列,

\begin{CD} 0 \longrightarrow p^* \cO_X(-1) \otimes q^* \Omega_Y(1) \longrightarrow \cO_{X \times Y} \longrightarrow \cO_\Delta \longrightarrow 0 \end{CD}
から Koszul Complex,
\begin{align} &0 \longrightarrow \bigwedge^n (p^* \cO_X(-1) \otimes q^* \Omega_Y(1)) \longrightarrow \cdots \\ &\longrightarrow \bigwedge (p^* \cO_X(-1) \otimes q^* \Omega_Y(1)) \longrightarrow \cO_{X \times Y} \longrightarrow \cO_\Delta \longrightarrow 0 \end{align}

を構成すると求める完全列が得られるというのが証明のアイデアとなっているようです.



詳細な内容について

定理の証明までを目標にある程度記事へのアウトプットを進めていたものの、Koszul Complex や Euler Sequenceなどの準備物について書いているとかなり冗長な記事が爆誕してしまいそうだということがわかりました。そのうち何回かに分けて書ければ良いなと思っています。




(参考文献)

  1. ON A THEOREM OF BEILINSON / JOHN R.CALABRESE
  2. The resolution of the diagonal and the derived category on some homogeneous spaces / Raffaele M. Carbone
  3. Fourier-Mukai Transforms in Algebraic Geometry / Shane Kelly
  4. 代数幾何学 1,2,3 / R. ハーツホーン著 ; 高橋宣能, 松下大介訳 ; シュプリンガー・ジャパン

自己紹介とブログの趣旨

はじめに

初めまして。趣味で数学を勉強している Sachi Y と申します。以前より数学勉強のアウトプットの場として数学ブログを書いてみたいと思っていたのですが、数学科での教育を受けていないこともあり、間違った情報を発信してしまうことへの葛藤がありました。

 

そういった経緯から、このブログの趣旨としては、あくまでマチュアの雑記であることをご理解いただければ幸いです。ただし、発信するからにはなるべく正確な情報を心掛けたいので、(当たり前ですが)引用と私的な記述についてはハッキリと区別がつくように心がけます。間違った記述や勘違いが多々あると思いますが早めの修正を心がけますので、コメントまたはTwitterのDMやリプライでお知らせいただけると大変ありがたいです。

 

自己紹介

趣味で数学を勉強している Sachi Y(Twitter : @sachiiiimath) と言います。代数幾何や数論幾何など、代数構造を幾何的な視点から見つめる分野に興味があります。

 

ミレニアム懸賞問題の「BSD予想」の存在を知り、ちゃんと理解出来たら面白いだろうなと思ったことがきっかけで集合論の勉強を始めました。その後、群論・環論と勉強を進めるうちに代数学の面白さにどっぷりハマってしまい、現在「和から」さん・「すうがくぶんか」さんの大学数学の家庭教師サービスや、DiscordやTwitterでの自主ゼミなどへの参加を通して色々勉強させてもらっています。

 

書いていきたいこと

数学書や論文を読む中での気付きを書いて行きたいと思います。内容は主に代数学に関するものになると思いますが、特に個人的に勉強中である、

 

 

が多くなるかと思います。その他に(著作権的に問題のない範囲で)、公開されているPDFや論文などの文献を用いて、ゼミの準備資料のような形で勉強ノートをあげたりするかもしれません。